2011/05/24

感謝を伝える方法

派遣でデータ入力をやってます。
葉書に書かれた名前やら住所やら電話番号やらを
ただひたすら無言で一心不乱に打っていくのです。

最初は心の中で
「な が の け ん 、 ま つ も と し 、」と、
打つ単語を考えながら打っていたのだけれど、
レベルが上がったせいか何も考えずに打つことができるようになり、
最近では別のことを考えながら打てるようになった。

最近その会社に新入社員が入った。
研修で我が部署にもやってきた 女子ふたり。
おそらく二十歳そこそこで、いいなー若くて、と思っていたんだけれど、
さすがに研修中でミニスカートには鼻の下が伸びた・・・じゃなくて
ビックリした。一応ビジネスカジュアルを義務付けられているので。

で、その新入社員の若者たちは熟練社員さんに良く思われていないようで、
最近色々な愚痴を盗み聞き・・・じゃなくて不可抗力で聞こえるようになってきた。

最初は服装のことや髪の色のことを言われていて、
次に態度のことを言われていた。
質問があって話しかけるときに「失礼します」や、
「お忙しいところすみません」の一言がない、とか、
色々教えてもらっても「ありがとうございました」がない、とかいう話だった。

私は派遣なので目立たず静かに黙々と打ち込んでいたんだけど、
その熟練社員さんの話がどうも頭に残ってしまって、
そして妄想が始まってしまって、今日は頭の中が忙しかった。

そもそも【ありがとう】とは感謝を伝えるためにあるのである。
とすると、熟練社員さんたちは「感謝しろよ」と思っているわけだ。
うんうん、私も感謝すべきだと思う。
でも、本当に感謝を伝えるのに【ありがとう】と言えば万人に
伝わるのだろうか。

頭の中に浮かんできたのは、インドのとあるレストランで
友人と食事をしていたときのこと。
隣の席に欧米人カップルが座ってきた。

私たちのテーブルの上にしか塩が置いてなかった。
その店は塩が各テーブルにあるのではなく、
カウンターに取りに行かなければならないのだ。

出てきた食事を食べ始めて、「塩でもかけてやるか」と
塩に手を伸ばしたその刹那。
隣の欧米人がスッとその塩を自分のテーブルに
持って行ってしまった。

私の手は今まさに塩を取ろうとしている形になっている。
準備万端。すべてにおいて抜かりのない、完璧なフォーム。
できることなら型を取って国立博物館に「塩を取る手」というタイトルで
置いておきたかった、そんな手だ。

引っ込みがいろんな意味でつかないし、
そもそもお前らの料理まだ来てねぇだろと思って
キッ!っと睨んでやった。

と言えばかっこいいかもしれないけど、
おそらく情けない顔をしていたんだと思う。
心では睨んでいるつもりなんだけど、あまりにも突然の塩の誘拐事件に
切ないやら腹立たしいやら驚愕やら混乱やらで混沌としていたと思われる。

一言で言うと、泣き笑い顔ってことだ。怒りは心の中にしかない。

すると欧米人は絶妙な顔で塩を見つめる私を見て、
こう思ったに違いない。
ちなみに手はまだ例のフォームをとり続けている。

《おっ、このイエローモンキーは今まさに塩を使おうとしていたんだな。
でも僕が取ってしまったために塩を使えなくて困っている。
でも、でもだ。言わせてもらうなら、僕だって塩がほしい。
ジャパニーズが独占する権利はない、そうだろう?
違うかい?裁判するか?ん?》

この状況。

大半の日本人なら「あっ、すみません」と言って速やかに塩を返すはずだ。
そもそも断りもなしに隣のテーブルから塩を誘拐しようなんてしない。

この後にするべき行為に【謝って塩を速やかに開放する】以外は認めない。

さぁ、謝れ。そして塩をあるべきところに返すのだ。
さすれば道は開かれん。

ちなみに手はまだ例のフォームをとり続けている。

欧米人はそんな私を見つめて、そしてようやく一言いった。










「Thanks!」

えっ

今の何?この人ありがとうって言ったの?何で?

つまり彼の心の中はこういうことだ。

《塩返したくねーなー。でも関係は丸く治めつつイニシアチブは
取りたいしなー。え?俺?謝る必要なくない?
だって塩に名前書いてある?全部?どこ?一粒一粒に?
ないじゃーん。ないなら謝る必要ないジャーン。
まぁここらでこの塩は我々の手中にあるのであって、
もうYOUのモノではないってことを表明しておくか。》

これには参った。投了した。もう打てる手が何一つない。

彼は笑顔だ。怒っていない。故にこっちもなんだか怒れない。
そして彼は感謝している。私にだ。
塩をくれたことに対しての感謝だ。
感謝している相手に対して返してくれとは言いにくい。
私はあげていない。しかし彼は感謝している。
つまり相手の勘違いだ。塩をくれたもんだと勘違いしている。
でもどうだろう。大の大人が、たかが塩一つで
「YOU、それはミステイクよ!」と言っていいものだろうか。
なんだか心がオチョコの裏ぐらい狭い人みたいじゃないか。
しかもこれはただの勘違いではない。
彼は確信犯なのだ。しかし、鉄壁の笑顔で勘違いだと言うことを
貫き通そうとしている。

このとき私は、Thanks!に、とてつもない強制力を見た。

結局私は塩を諦めた。
私の心の中の小さな何かが壊れた音が聞こえた。

そんな悔しさを思い出した。


つまり、この【ありがとう】は感謝は表面だけで
中は策略に満ちている【ありがとう】なのだ。
私がこのことに気付かなければそれはただの感謝の言葉だった。
でもこの場面での【ありがとう】の用法に気付いてしまった。
私にとってこの【ありがとう】の用法は、《感謝》ではなく
《強制(的に引き下がれ)》なのだ。

ということもあるので、新入社員さんは実は別アプローチで
感謝を伝えているんじゃないだろうか。

例えば「分かった?」と聞かれて「はぁ。」と答えるこの【はぁ】の
用法が、一般的な《気のない返事》という用法ではなく、
《ありがとう以上に感謝を伝える感謝の言葉》という
用法なのかもしれない。

ただその用法の真意に我々が気付いていないだけなのだ。
我々が気付いてあげなければならないのだ。
彼女たちが我々が気付かないせいで
不名誉な愚痴を言われる立場であってはならない。
彼女たちは本当はいい人たちなのだ。

でも、人間って、分かり合うのって、難しいよね。

そんなことを考えていたら8時間経ってて、今日の仕事が終わった。

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