秋の涼しい風が通り抜け、遠くに見えるガンジスも
いつもより澄んでいるような、そんなひと時のことだ。
「腑抜け」と書いたような顔でチャイを飲んでいると
私の後ろで2人のインド人男性が喧嘩し始めた。
A「お前が50ルピーって言ったんだろうが!」
B「いーや、言ってないね!冗談はやめてくれよ!この×××!!!(放送禁止用語)」
A「テメェー!!!」
周囲のインド人もたかり始め、チャイ屋のおじさんは困惑、
というかちょっと楽しんでいる様子。
止めもしないでニヤリと笑っていた。
うわぁー・・・と思っていたけれど、人がたかりすぎて移動できず
無心にチャイをすすっていた私はひどく居心地が悪かった。
早く終わってくれ、それだけを無心に考えていたのだ。
するとそこに、一匹のバッタらしき虫が登場した。
ただのバッタではない。
子供の拳ほどの、超巨大なバッタ。
天変地異?と訊きたくなるほどの圧倒的な存在感…ッッッ!!!
このくらいの存在感…ッッッ! |
そいつがこともあろうに、わたしの腕にバッチリとまった。
ぎょへーーーー!
突然の来訪に、恥ずかしながら我を忘れた。
その忘れっぷりたるや、もはや「無」だ。
時と場合によっては悟りも開けるし、
ブッダと崇められてもやぶさかではないほど無心だった。
人はあまりにビックリすると、体が反応しないらしい。
「ペットですが、なにか?」という体裁で私の腕にとまったバッタを、
振り払うことすら出来なかった。
ガガガーン!っていう効果音とともに、目がびょーんって飛び出してる
昔の漫画っぽくなっていた。
周囲の視線を欲しいままに、私はバッタを見つめて叫び続けた。
ひぉぇ~~~~~!
見るに見かねた喧嘩中のインド人が、
私の腕からバッタをつまむとポイッと投げ捨てた。
汗だくの私を哀れむように見つめると、
「ティーク ハェ?」(OK?)と訊いてきた。
OKかと訊かれると、ある意味OKなんだけど
ある意味NGなこの心境。
しかし、バッタ登場のお陰で喧嘩の腰は折れたようだ。
小さな体に秘められた神秘の力だとでもいうのか、
バッタのお陰で事なきを得たのだ。
あぁ素晴らしきかな、生命よ。
母なるガンジスの恵みよ。
なんとなくバツが悪い感じでみんなが解散すると、
チャイ屋の倅(10歳くらいの少年)が
あろうことかバッタをつまみあげて再度私に渡してきた。
お前は空気を読め。
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